A.P.238 2/20 10:00

マザーシップ管制エリア。
先が見えないほどの広大な管制室内の中央、浮かび上がる巨大なモニターに様々な銀河系や惑星の情報が目まぐるしく映し出されては消えていく。
数百人、モニターを取り囲むようにそれぞれのコンソールに身じろぎすることもなく待機する情報管理官達。
その後ろ、ひときわ高い位置にある司令官席。
純白のキャストが仁王立ち、モニターの中心に映し出された若者達に演説を行っていた。
《「新たに誕生する『アークス』よ。今から諸君は、広大な宇宙へと第一歩を踏み出す。覚悟を決め、各々のパーソナルデータを入力せよ。我々は、諸君を歓迎する」》
身体を機械に置換し、頑強な肉体を得たキャストという種族。
三英雄と称えられる実力者の一人、レギアスは司令室から、眼下の情報管理官達へ隅々まで届く、威厳のこもった低い機械音声を響かせる。
《「各自、アークス候補生を乗せたキャンプシップが発艦次第、担当のパーティーへの情報支援を開始せよ」》
レギアスの一声の元、情報管理官達の喧噪が始まった。
その様子を見届けたあと、司令席にもたれるように座り、一つため息をつくレギアス。
ふと、後ろから拍手の音と共に嫌みを含んだ声が聞こえてくる。
「演説ご苦労、レギアス司令殿。毎回、同じことを言って飽きないものだね」
《「・・・何をしに来た。ルーサー」》
レギアスは振り返らずに不快感を隠さない声色で答える。
対して、司令室の壁にもたれかかり拍手をしていた男、ルーサーはおどけるように両手を広げる。
「何をとは心外だね。新たなアークスの巣立ちを見に来たのさ。彼ら彼女ら、未来の部下になるかも知れない若者を気にかけるのは長として当たり前だろう?」
《「ふざけたことを・・・。貴様がアークスに感情を持つことなどあるのか?」》
「当たり前じゃないか。彼ら彼女らは大事な大事な実験生物であり実験動物なのだから」
《「貴様・・・ッ」》
ルーサーの心ない言葉に憤り、思わず立ち上がり、振り返るレギアス。
その音に気づき、レギアスのほうを気にするめざとい情報管理官達が何人かいたが、すぐに自分の仕事に戻る。
「あぁ、言い忘れていたが君以外に僕の姿は見えていないよ。フフッ。ミラージュエスケープの応用技術でね。指定した対象以外には感知が出来ない指向性のある光学迷彩だよ。これも虚空機関【ヴォイド】の最近の研究成果さ」
自慢するように解説するルーサーの言葉を無視し、改めてルーサーに向き直るように座り直すレギアス。
《「もう一度聞く。貴様は何をしに来た。老体をからかいに来たでもあるまい」》
「フフッ、そんなに聞きたいかい? 君と僕の仲だからね。良いだろう」
あくまでふざけた態度を変えないルーサーは、嫌らしい笑みを顔にはりつけながら、言葉を続ける。
「つい先程、虚空機関から惑星ナベリウスのフォトン係数に異常があると報告があった。場所は、現在アークス候補生の修了試験が行われている地域だ」
《「何・・・?」》
ルーサーの言葉に、レギアスが怪訝な声色を発した間もなく。
情報管理官達が声を荒げる。
「フォトン係数が危険域に到達! ナベリウス森林エリアにて空間侵食を観測! 現地よりダーカー出現の報告ありッ!!」
《「そんな前兆今まで・・・こちらもダーカー出現!? アークス候補生が襲撃されています!」》
「アークス候補生のパーティーリーダーに逃走の指示を!」
「現地の映像まだか!?」
管制エリアに一気に緊張が走る中、レギアスは視線を移し、巨大モニターを睨む。
《「ダーカーだと・・・?」》
巨大モニターに表示されている惑星ナベリウスのマップに、次々と赤い光点が増殖していく。
「なるほど、森林エリアの中でも特定の地域のみに異常なフォトン係数が見受けられたのは、局地的なダーカーの出現の前兆だったか」
一人、納得したようにうなずくルーサーにレギアスは問いかける。
《「惑星ナベリウスにおいて、ダーカーの出現は40年前を最後に確認されてない・・・だからこそ、アークス研修生の実地訓練の場としているはず。何故、突然ダーカーが出現した・・・?」》
「さぁね。そこまでは、僕にも分からない。だが、今回の候補生達にとっては随分と過酷な修了試験になるじゃないか」
愉快そうにそう言うとルーサーは壁から離れ、出口へと向かう。
《「どこへ行くつもりだルーサー!」》
ルーサーは愉快そうな笑みを浮かべた顔で、レギアスを振り返る。
「僕は今から、惑星ナベリウスで起こる事象を観測しデータを精査しなければならない。失礼するよ。では、せいぜい頑張って被害を抑えてくれ。レギアス司令殿」
皮肉混じりにそう言い捨て、ルーサーは司令室から出て行く。
《「くっ・・・ただでさえ混乱しているというのに、あやつを自由にさせるのはまずいが・・・」》
ルーサーの背を睨み、苦虫を噛み潰したような低い声でうなるレギアスは、一つ深呼吸したあと、完全に混乱している情報管理官達の方向へ向き直し、一喝。
《「皆の者狼狽えるな! コードD発令!・・・アークスシップ全域に緊急任務を発令せよ!」》
レギアスの一声で、管制エリアの緊張が最高に達し、喧噪が一層、慌ただしくなった。

その喧噪を背に聞きながら通路を早足に歩くルーサーは、小さな声で楽しそうに呟く。
「さぁ、どうするアークス。どうするレギアス。どうなる惑星ナベリウス。どんな結果に至るか、僕はそれなりに楽しみだ」
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